哲学の謎

『哲学の謎』(野矢茂樹)~全世界におすすめの良書

私が読んできた野矢茂樹の本の中でも、一番のお気に入りが、この『哲学の謎』です。各国の言語に翻訳して、全世界で読まれることを祈るくらいです。何がそんなに気に入ったのか、それをお話ししましょう。

哲学の謎

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■物事の考え方の手本として

哲学の謎のテーマは哲学書にしては素朴で、哲学の素養のない人たちでもふとしたときに考えを巡らせたことがありそうな内容が詰まっています。

考える

たとえば「私の目に赤い色として映っているこれを、他の人も同じ色のように見えているのだろうか」とか「火星人はいるんだろうか。
どうやったら確かめられるんだろうか」とかです。実際のところ、哲学というのは素朴な疑問にはあまり答えることができないのですが、こういった素朴な疑問を考えるには哲学的思考は役に立ちます。

考えることに慣れていない人たちの考え方は、「考える」というより「想像する」とか「当てずっぽうで予想する」に近いものがあります。
確かに、正しい答えを誰も知らないことについては、当てずっぽうだからといって間違っているとは言い切れません。
しかし、正しい答えが分からないからと言って間違った答えが分からないわけではありませんし、正しい考え方が分からないからといって間違った考え方が分からないわけでもありません。

たとえばスーパーコンピューターでも計算できないような、とんでもない桁数のかけ算があるとしましょう。一兆桁の数の一兆乗とか。誰もその正しい答えは分かりません。
でも、その答えが0ではないことは分かります。因数に0が含まれていないかけ算の答えが0になることはあり得ないからです。あるいはその数が偶数であれば答えも偶数になりますし、奇数であれば奇数になります。

正しい答えが分からないなら、何を言っても正しいことになるというわけではないんですね。

哲学の謎で野矢茂樹は我々に、素朴な問題、誰も答えを知らないような問いかけに対して答えを出そうとするときの、考えの進め方の手本を見せてくれています。

火星人が八本足だとする。
つまり「火星人ならば八本足である」というのならば、「八本足でないならば火星人ではない」ということになるわけだが、八本足ではないものを集めて、それが火星人ではないことを確認することでこの主張の信憑性が増す。
部屋には八本足ではなく、火星人でもないものがあふれているから、そういうサンプルはいくらでも集められるが、一体どうして部屋から一歩も出ずに火星人が八本足であるかどうかがわかるのだろうか?

こんな話が出てきます。これは論理学でトートロジーとされる対偶律を用いた考えなのですが、トートロジーを使って考えても違和感は出てくるんですね。

■とにかく読みやすい

読みやすいのが野矢茂樹の著書の特徴と紹介しましたが、その中でも特に平易な文章で書かれています。
文体は二人の人物の対話編のような作りになっていまして、二人とも日常的なごくありふれた言葉遣いで会話をしています。
扱っているテーマも取っつきやすいし語り口もわかりやすいということで、哲学を学んだことのない人でも、哲学に興味がない人でも楽しめるはずです。

■他の本を読む前の下準備として

哲学の謎のテーマは素朴なものが多いのですが、その扱い、考えの進め方の過程では他の著書にも通じるものが見られます。
自分と他者との関係とか、言葉の意味、行為における意図のあり方など。
専門的な解説は省かれていますので、この本だけでその詳細はつかめませんが、後日他の本を読んでみるに当たっては、哲学の謎を読んだ経験が活きて、理解の助けになると思います。

二人の掛け合いも面白く、単純な読み物としても楽しめるし、内容も理解しやすいし、ものの考え方を学べるという点で役にも立つし、ということで私はこの本を全世界におすすめしたいとすら感じているわけです。